歌劇「山科閑居」(2016/17)
あらすじ
第一幕
序幕
時は暦応、足利氏が実権を握る南北朝時代のことである。
鎌倉では鶴岡八幡宮の造営式が行われており、将軍足利尊氏の実弟直義以下、執事職の高師直、直義の饗応役の塩谷判官高定、桃井若狭乃助安近が列している。そこで師直は、塩谷の妻に横恋慕しようとするが、言い寄るところを若狭助に止められる。高慢な性格の師直は、若狭之助を罵る。翌日、怒った若狭之助は師直を討つと息巻くが、過労の加古川本蔵が師直に賄賂を贈り謝らせることで、事を収めた。腹の虫が収まらない師直は、塩谷へ侮蔑の言葉を浴びせかける。堪忍袋の緒が切れた塩谷は師直に切りかかろうとするが、その場に居合わせた本蔵に止められる。その後二人の処遇が決まり、塩谷は切腹を命ぜられる。しかし、師直はお咎めなしと決まる。喧嘩両成敗が成されぬことにいきり立った塩谷の家臣は、家老の大星由良助を筆頭に高家に討ち入ることを決心する。
第一場
事件から一年半過ぎるが、家臣たちに討ち入りの動きはない。元家老である由良助に至っては、祇園一力茶屋での豪遊で、連日朝帰りをする始末である。
第二場
十二月のある日、本蔵の妻・戸無瀬と娘・小浪が鎌倉から京都・山科にある大星家へやってくる。二人は小浪と許嫁した由良助の息子・力弥の元に嫁ぎにやってきたのである。
第三場
女中・りんの取り次ぎで二人は由良助の妻・お石に会う。小浪と力弥の祝言を挙げたいと戸無瀬が言うも、お石の返答はにべもない。師直に金銀をもって媚びへつらう本蔵の娘では、真っ正直な塩谷の家臣の息子とは心根が釣り合わぬと言って一蹴してしまう。戸無瀬は怒りを抑え尚も頼み込むが、お石は取り合わず、二人を残してその場を去ってしまう。
第二幕
第四場
お石に去られて途方に暮れる戸無瀬と小浪。泣くばかりの小浪を戸無瀬は慰め、他へ嫁ぐことも勧めるが、小浪は頑として聞き入れない。その裏には父の言いつけを守ろうとする思いがあった。戸無瀬は夫の名代を果たせない自らへの情けなさから自害しようとする。小浪はそれを止め、離縁されるような親不孝者の自分こそが死ぬべきだと言う。娘の覚悟を聞いた戸無瀬は、二人で心中することを決意する。
第五場
刀を振り上げたその瞬間、虚無僧の尺八の音で「鶴の巣ごもり」が聞こえる。鳥でさえも我が子を慈しむのにと、子を殺そうとする自分を咎める。その時、「御無用」という言葉で尺八の音が止む。「御無用と言うのはこの刀にか」と問う戸無瀬に答えたのは、屋敷から出てきたお石。「心中するほどのお心ならば、力弥と祝言させよう」とお石は言う。しかし、その引出物に望んだのは加古川本蔵の首であった。
第六場
親子が言葉を失ったところに虚無僧の姿をした加古川本蔵が現れる。由良助を大馬鹿者と罵る本蔵に、お石は槍を向けるが、あえなくひっ倒されてしまう。本蔵が刀を振り上げようとしたところに力弥が現れ、母を助けようと本蔵の脇を槍で貫く。
第七場
力弥が本蔵にとどめをさそうとしたその時、由良助が現れ力弥を止める。由良助は本蔵自身が力弥に討たれることで、敵討ちを成して両家のいさかいを解き、小浪に祝言を挙げさせようとしていた本蔵の策略を見抜いていた。そして、由良助は師直の屋敷に討ち入る覚悟を打ち明ける。
第八場
本蔵は、大星親子の忠誠心に感服する。嫁入りの引出物として、師直の屋敷の案内図を由良助と力弥に手渡す。これがあれば討ち入れると二人は策略を巡らせる。その間にも、力弥に討たれた本蔵は徐々に弱っていく。
すべての準備が整った力弥は討ち入りへと気がはやるが、由良助はそれをたしなめ、今宵一夜は小浪とともに過ごし、その後討ち入りに参加するように告げる。
そして、本蔵の虚無僧姿を身にまとい、死にゆく本蔵へと呼びかける小浪の声を背中に受けながら、討ち入りの支度のために堺へと旅立つのであった。
原作:文楽「仮名手本忠臣蔵 九段目」
作曲・台本:黒川 拓朗
演出・ステージデザイン:neco
初演:2017年3月26日 京都市立芸術大学大学会館ホール
指揮:坂口 航大
演奏:京都市立芸術大学学生オーケストラ・合唱団
歌手:大星 由良助 (Bass Baritone):大西 凌
お石 (Mezzo Soprano): 中谷 明日香
加古川 本蔵 (Baritone): 浦方 郷成
戸無瀬 (Soprano): 森田 万柚子
小浪 (Soprano): 朝枝 恵利子
大星 力弥 (Tenor): 廣津 大介
口上人 (Baritone): 宮尾 和真
塩谷 判官 (Tenor): 佐野 大貴
太鼓持ち (Baritone): 濱田 貴大
おりん (Soprano): 原田 菜奈
仲居 (Mezzo Soprano): 村尾 寧々