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2019年2月17日 西村朗 作曲「紫苑物語」鑑賞しました!

  • 執筆者の写真: Takuro Kurokawa
    Takuro Kurokawa
  • 2019年2月23日
  • 読了時間: 3分

 2019年2月17日㈰、東京・新国立劇場にて、西村朗作曲の新作オペラ「紫苑物語」を鑑賞してきました。初演の情報が発表されてからずっと心待ちにしていた作品でしたが、それを裏切らない素晴らしい初演を目の当たりにできてとても幸せでした!




 全体の感想としては、「日本語のオペラで、やっとこういう作品が初演されたんだ」という、舞台音楽をフィールドにする作家として非常にうれしい上演でした。オペラ作曲に対して固定観念を持たず、台本の中の世界観と西村さんの音楽語法を上手く溶け込ませて、音楽的に妥協のない充実した仕上がりの作品だったと思います。オーケストレーションはとても繊細かつ大胆な書き方をしていて歌との相性やバランスもよく、純粋な音楽作品としてみたときに作家の個性が存分に発揮されているように感じました。オーケストラの無駄のない動き方や音響の微妙なバランスの調整など、音楽面の充実は指揮者の力もかなり大きいように感じました。

 一幕の物語と音楽の進み方はそれが特に感じられました。合唱の役割が際立っていて、クラスター的に用いて狂乱を演出したり、逆に調和した響きを作って微妙な情感を表現したりと、オーケストラとも相まって独自の世界観が感じられ、物語の中に吸い寄せられるような印象を受けました。


 それだけに、二幕が個人的には惜しかったな、という印象があります。一幕の台本の筋立てがしっかりしていたのに対して、二幕はコンセプチュアルな筋立て(原作も同じなのか、台本の意図なのかはわかりませんが)に感じられましたが、一幕で前へ前へと進んでいた音楽が少し停滞するように感じられて、ある種禅問答のような「答えのない筋道」で一幕のような楽しみ方は出来なかったように感じます。(これについては、細川俊夫さんの「松風」でも同様の印象を抱いたのですが、それが作家の狙いだったのかもしれません。)

また、言葉の使い方は自分の中で両極端に評価が分かれるところです。日本語として意味のないようなことばを歌ったり、人物が歌唱中に唸ったり狂乱したりするような、シラブルとしての使い方を効果的に織り交ぜていることは、新鮮なアプローチでとても参考になったところです。

 日本語の発音・抑揚などはかなり意識して書かれていて、素晴らしいなと思いました。ただ、物語の内容的に重要な意味を持つ部分を重唱で歌う部分は言葉がほとんど聴き取れず、字幕をみても内容が掴みづらい箇所がありました。単語の「繰り返し」は、効果的に用いられていると思う個所(重要な単語を際立たせる等)と、あまり音楽上・ドラマ上の意味を見出せないような部分もありました。


 自分のことは全て棚に上げて、一鑑賞者として思ったことを書かせていただきましたが、この作品は日本人作曲家のオペラ史の中で重要な立ち位置になっていくだろうな、という予感がする素晴らしい作品だったと純粋に思います。こういった作品がまたこれからも生まれてきてほしいな、と強く願います。

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